田圃の響き

date:1999.4.25

 すっかり春になった。今年もゴールデンウイークが近づいてきた。すると明確に新しい季節の訪れを告げる音が聞こえてくる。冬の間、静かに休んでいた田圃に耕運機が入り、用水から水が引きいれられる。ある日突然、側溝を流れる水はかさを増して速くなり、単調なエンジンの響きに空気が染まって行く。都会では聞こえてこない風景だ。

 私の今住んでいる家が建つ土地も、元は田圃だった。周りもどんどん住宅地になっているが、まだ田圃も多く残っている。この土地に住んで8年目。農耕期の始まりの音風景は、もうすっかり季節の音として体になじんでしまったような気がする。

 そして、田に水が入るとカエル達がいっせいに鳴き出す。小さな緑色の体を膨らませているからアマガエルだろうか。水を張った田の数が日に日に増え、それにしたがって一匹一匹の声は不鮮明になり、大きな斉唱となる。夕暮れに田圃のほとりを歩けば、どちらを向いてもにぎやかである。どこにそんなに居るのだか、目で見たとしても見つけられるのは2、3匹。あとの大勢は、水辺のどこかにかくれている。

 今、鳴いているのは親ガエルだという。田植が済んで、やがて稲の葉がずんずん伸びる頃には、オタマジャクシ達がすいすいと泳ぐことだろう。


Copyright(C) Yoshio TSUCHIDA. All Right Reserved.

E-mail: tsuchida@neptune.kanazawa-it.ac.jp